(愛知県弁護士会民事介入暴力対策特別委員会 弁護士 淺見 敏範 氏 )
利益供与禁止規定(総論)
全国都道府県の暴力団排除条例には、事業者が暴力団員等に対して利益を供与する行為を禁止する利益供与禁止規定があります。
愛知県でも平成23年4月に愛知県暴力団排除条例が施行されて利益供与が禁止され(第14条)、違反した事業者には勧告や公表といった行政処分が科せられます。
勧告や公表を受けた事業者は、暴力団との親密な関係にあるものとして金融機関の反社データベースに登載される結果、新規融資が受けられず、許認可が取り消され、取引先との継続的契約が解除されるなど事業の存続が危ぶまれる深刻な事態が予想されます。
暴力団排除の風潮が一般化しつつある今日、「暴力団関係企業」との社会的烙印は事業活動の致命傷になりかねないのです。 ところで、実際の取引場面において、利益供与か否か悩ましいケースも少なくありません。そのような判断を現場任せにすることは危険です。
警察から指摘されるまで利益供与に気づかないとか、逆に担当者が利益供与を広く捉えて活動を萎縮するとかは、避けたいところです。 この機会に、事業活動の利益供与該当性を検証してみましょう。
利益供与行為とは(各論1)
愛知県暴排条例で禁止される利益供与行為は「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資する利益の供与。」と定義され、助長性の有無がポイントです。 また、この定義に該当しても「法令上の義務の履行として供与する場合」「情を知らないで締結した契約の履行として供与する場合」「正当な理由がある場合」は除外されています。
利益供与の除外事由(各論2)
(1) 助長性がない行為
- コンビニが組員に日用品を販売する行為は、それが個人の日常生活に必要 な数量であれば、利益供与に該当しません。
- 組員に口座取引をさせる行為は原則として利益供与となりますが、それが生活口座であれば助長性がなく利益供与に該当しないと考えられています。
- 組員の葬儀は、それが身内だけで執り行う場合には助長性がありませんが、 組葬であり他の組から多額の香典が集まるケースでは利益供与に該当すると判断されました。(埼玉H23.12.24勧告)
(2) 法令上の義務の履行
- 医師が組員を治療する行為は医師の義務であり、仮に抗争事件の最中であっても利益供与には該当しません。
- 組事務所に電気やガスを供給する行為も法令上の義務の履行と言えます。
(3) 情を知らないでした契約の履行
- 相手が組関係者と知らず、助長性にも気付かずに契約を締結した場合は利益供与に該当しません。ただ、組の代紋入り行動服を販売して「知らなかった」 は通らないでしょう。 (愛知H24.2.14勧告)
(4) その他正当な理由がある場合
- 組事務所の内装工事は、それが耐震補強工事なら「正当な理由」が認められ る(私見)も、単なる改装工事は利益供与に該当します。(奈良H23.7.22/大分H23.4.16/兵庫H23.7.29/岡山H23.8.18 勧